動物歯科診療

近年、ヒトで歯周病や口腔内の慢性炎症が、糖尿病や心臓病、腎臓病、認知症、肺炎などに大きく関与していることが明らかになってきています。

これは、犬猫も同じです。歯周病を予防、治療することが健康へとつながります。
日頃からケアをする、お手伝いをさせていただきます。

治療法が確立されていない猫の口内炎にも、漢方薬や栄養療法を併用し、良い状態を目指します。

猫の歯肉口内炎

猫の重度の口内炎は、まずは歯周病になっている歯の『根っこ』を残さずに、抜くことが大切です。これで完治することも多くみられます。

猫の上顎の写真です。

猫の歯肉口内炎

抜歯前 お口の一番奥が真っ赤に腫れています。とくに右側!

猫の歯肉口内炎

抜歯後 炎症がおさまってきています。

下顎も歯周病が重度で、臼歯は3本ともきれいに抜けました。

猫の歯肉口内炎

右下顎の臼歯は重度の歯周病だったので、歯の周りの組織が溶けていて、簡単に抜歯出来ました。

猫の歯肉口内炎

左下顎の臼歯。こちらは抜きにくかったので、歯を分割して抜いています。

乳歯遺残

小型犬の場合特に、永久歯が生えてきているのに乳歯が抜けずに残ってしまうことがあります。そのままおいておくと、永久歯が正しい位置に生えず、重度の歯周病に発展しかねません。早めに抜歯するのがベストです。犬猫の場合、抜歯には全身麻酔が必要になります。

乳歯遺残

たくさん乳歯が残っています。(〇で囲んだ歯が乳歯です。)

乳歯遺残

左上顎の犬歯(永久歯)の後ろに、乳歯の犬歯が残っており、永久歯と乳歯の犬歯が並んで生えています。
こうなると、この2本は歯周病に罹りやすくなります。

咬み合わせの矯正

上下の顎の長さのバランスがうまくいっていない場合、一番問題になるのが犬歯のかみ合わせです。
正常なかみ合わせですと、下顎の犬歯は上顎の犬歯とその手前にある切歯の間に入ります(一番下の写真)。
1枚目のの写真は、下顎が少し長いため、下顎の犬歯が定位置よりも手前にあり、上顎犬歯の手前にある切歯にぶつかってしまいます。
このようなときは、その切歯を抜いてしまうと、下顎の犬歯がおさまり、咬み合わせが良くなります。このような矯正を抑制矯正と言います。

乳歯遺残

 この切歯にあたってしまうので、この歯を抜きます。
(下顎が長いので歯が前に出てしまっています。)

乳歯遺残

下顎の犬歯はどこにもぶつからなくなりました。

乳歯遺残

こちらは正常な咬み合わせの犬です。下顎の犬歯が上顎犬歯とその手間の切歯の間にきちんと収まっています。

眼窩下膿瘍

急に眼の下が腫れてきて痛みがある場合、それは眼窩下膿瘍という歯の病気かも知れません。
上顎臼歯の根っこに細菌感染がおこり発症します。臼歯の根っこに細菌感染がおこる『主な』原因は以下のものです。

重度の歯周病

歯の周りの炎症が重度であると、歯の中心にある神経と血管部分(歯髄)に細菌が侵入し、歯の根っこに激しい炎症が起こります。

破折(はせつ)

硬いものを咬んで、あるいは事故などで歯が折れて歯髄が露出してしまうと、そこから細菌が侵入し、炎症が起こります。

咬耗(こうもう)

上下顎の歯が咬みあうことで歯のエナメル質や象牙質がすり減ることを咬耗と言います。あるいは、石やおもちゃ、テニスボール、ケージなどの硬いものを常に咬んでいると激しく歯がすり減りますが、これも咬耗と言います。咬耗が進行すると歯髄がむき出しになり、細菌が侵入して激しい炎症が起こることがあります。

齲触(うしょく=むし歯)

犬猫で齲触を認めることはごく稀です。齲蝕が発見された時にはすでにかなり進行していることが多く、大部分の歯が消失して、根っこ部分も激しい炎症が起こっていることが多いです。

治療は、原因となった歯を抜くことです。抗生物質を内服すると腫れがひくことがありますが、原因となった歯が取り除かれない限り、完治はしません。

眼窩下膿瘍

左眼の周りが腫れてきたということで来院されました。

眼窩下膿瘍

右眼が痛そうということで来院されました。

眼窩下膿瘍

左眼の下が急に腫れてきたけれども元気食欲はありますとのことでした。

眼窩下膿瘍

左の眼の下が急に腫れてきて、食欲もありませんでした。

眼窩下膿瘍

麻酔をかけて左上顎の口の中をみると、赤丸で囲った中にある臼歯の周囲は赤く腫れあがり、押すと膿が出てきました。レントゲン検査で、この歯の根っこ(根尖)に激しい炎症があり、周囲の骨などの組織が溶けているのがわかりました。

歯周病

酷い口臭がする場合は、歯周病(歯肉炎、歯周炎)を疑います。 歯の表面に食べかすの歯垢が溜まると炎症がおこり、引き続いて様々な化学反応が起こって『歯周病』が進行します。歯垢が唾液中のカルシウムやリンなどを取り込んで、やがて歯石となります。歯石はその表面がザラザラなので、その上にさらに歯垢が付きやすくなります。

『歯周病』が重度で慢性的になると、歯の周りの組織や骨を溶かすため、歯肉が腫れる・赤くなる、口臭が酷くなる、歯がグラグラする・抜ける、歯の脇から膿や血が出る、など症状がみられるようになります。

軽度の歯周病の場合には、歯石を除去して歯面を磨き、歯周ポケットの中をきれいにお掃除します。ちなみに、これらの処置は全身麻酔をかけて行います。というのも、犬や猫では処置中に、少々の痛みに耐えて、おとなしくじっとして口を開け続けてはくれないからです。

重度の歯周病の場合には、残念ですが歯を抜いてしまうのが、一番安全で確実に治る治療法です。

さて、全身麻酔をかけて歯科処置をした犬や猫は、口臭も消え、お口の中はピカピカになって帰られます。飼い主さんも大変喜ばれますが、残念ながら生きている限り、たちまち、再び歯垢~歯石は付き始めます。これは、人間も一緒です。歯磨きをしましょう。

歯周病

トリミングサロンで、『無麻酔で歯石取り』を続けていた犬の口の中です。歯垢や歯石はあまりついていませんが、歯の周りの炎症は激しく、歯の間にできもの(矢印)も出来てしまいました。

歯周病

歯肉が真っ赤に腫れあがっています。無麻酔で見えるところだけの歯石を取っても、意味がありません。一番大切なのは歯と歯肉の間の歯周ポケットの汚れを掻きだすことです。それを行うには、全身麻酔をかけて痛み止めを使わなくてはなりません。

硬いものを咬んで臼歯が割れる

硬いものを咬むと歯が丈夫になる!ということは、あり得ません。
犬にヒヅメや硬いオヤツを与えると、奥の臼歯が縦割れして、中の神経と血管がむき出しになり出血して痛みます。
なるべく早めに、動物病院で処置を行ってもらいましょう。もちろん、全身麻酔です。
このまま放置すると、上述のような眼窩下膿瘍に発展します。

硬いものを咬んで臼歯が割れる

硬いチーズのオヤツをもらい、喜んで咬んでいたところ…

硬いものを咬んで臼歯が割れる

左上顎の臼歯が縦にわれて、神経と血管(割れた歯の真ん中に見えるピンクの丸)がむき出しになっています。